実家暮らしの手帖

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旅する魔性の女

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非日常の生まれるところ



今回の旅の主な目的は「プッチーニが描く女たち」と題されたオペラアリアのソプラノリサイタルを聴くこと。

サブテーマが「恋に生きる魔性の女を歌う」ということで、なんだか自分の日常に最も遠いところにありそうな異世界の、新鮮な感動を楽しみにやって来た。

街の中心地の一角に建つ洒落たホールに出現した異世界の中心で愛を叫ぶ週末の午後。マノン・レスコー、トスカ、トゥーランドットラ・ボエームのムゼッタと、次々にタイプの異なる女たちの情熱的な愛のアリアがみっちり詰まった濃厚な2時間があっという間に過ぎていく。

オペラならではのざっくりした心理描写で、愛だの裏切りだの駆け落ちだの死別だの、これでもかと激しく行き交う情念が明快かつ単純に異種のエネルギーとして私の中にぐいぐい入り込んでくる。

そんなアホなと心のどこかで思いつつ、異質のパワーに矢継ぎ早に押され続ける私の意識は、しばし米と魚と麹とたくわんで出来た自らの淡いアイデンティティを忘れ、獣肉とワインとチーズとオリーブオイルのたぎる熱いダンスを踊り出し、今なら一人で「天城越え」でもやりかねない狩猟のパワーを無理矢やりに創造していった。

かくして魔性の女をバーチャルな記憶にインプットするというエキサイティングな体験を通して、敢えて異質な要素を自分に摂りこむ特別な時間を作ることは、じゅうぶん楽しい旅の目的になることを確認した。

今回の短い旅の成果として、私の細胞は魔性の要素を吸収した新たな細胞に新陳代謝したのであった、めでたしめでたし。- FIN-

 

と、私の妄想ではここで「魔性のぐりのアリア」がエンディングロールで流れるはずなんだけど、うん。

いくらなんでもそれはないな。