冷たい雨の降りしきる中、午後から父の囲碁仲間が来るというのでお茶請けに六花亭の季節菓子「新米大福」を用意して待つ。
こんなアンニュイな気分を誘う日には家にこもって静かに晴耕雨読と行きたいところだが、毎日のおうちごはんを預かる身にとって、週末の買い出しは兎にも角にも翌週の兵糧を確保するための最優先事項である。腹が減っては読書もできぬ。私は優雅な有閑マダムのアンニュイを諦め、慌ただしくコンパクトカーのコックピットに乗り込んで、家から40分ほど北の先にある「本日5%サービスデー」の大型スーパーを目指して激しい雨飛沫のあがるアスファルトをささやかなスペックのエンジンを全開に駆け抜けた。
助手席にひとつ、六花亭のこし餡もなか「ひとつ鍋」を携えて。
こんにちは、ぐりです。
普段あまり甘いものを口にしない私ですが、六花亭のお菓子だけは時々無性に恋しくなります。高校時代は夕食後の口直しにヤマザキの一口ようかんに練乳をかけたものを毎日食べるほど極度の甘党だったのですが、今はすっかりです。味の好みも惚れた腫れたもまた無常なり。世のことわりですね。
それにしても「ようかんに練乳」若気の至りとはいえこれはナンセンスの極みだな。
六花亭といえばレーズンバタークリームのビスケット、マルセイバターサンドがあまりにも有名ですが、このメーカーのラインナップは独特のセンスでジャパンナイズされた「身近な素朴さ」を感じる魅力的な名前のお菓子がたくさんあります。
・「大平原」と「めんこい大平原」 (マドレーヌ)
・「いつか来た道」(レモンチョコクリームの入ったパイサンド)
・「玉がしわ」 (レーズンとペカンナッツ入りメープルケーキ)
・「北加伊道』 (”ほっかいどう”。つぶあんの入ったパイ)
・「雪やこんこ」(ホワイトチョコがサンドされたココアビスケット)
・「おかげさま」(ジャンドゥーヤ入りもなか)
・「おふたりで」(ダックワーズ)
・「霜だたみ」 (サクサクのパイ菓子)
よくもまあこんなにうまく郷愁と泥臭さをゆるカワの野暮に引き上げる絶妙な名前を思い付くものだと改めて苦笑しながら、私にとって六花亭の最大の魅力はこの「洗練された野暮ったさ」の追究に市場価値をしっかりと根付かせたプロフェッショナルな技と理念にあるのだな、なんてことをハンドル片手に思い馳せ甘味を頬張る飛沫雨の午後。
ところでただ単に「美味しいから好き(*˘︶˘*).。.:*♡」って素直に食べられないところが、私の市場価値をこれまでずいぶんと貶めてきたような気がします。何を今更ですが。