実家暮らしの手帖

食う寝る遊ぶに住むところの機微を綴るブログ

激辛エスカレーション、もう何も辛くない。

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辛いは「からい」のほうです。もともと何も「つら」くはありません。

こんにちは、もはや違いの分からなくなってしまった女ぐりです。
今日は家族にすら公にしていない私の秘密の修行について、気づけば読者さん174人(26日15:00現在)という思いがけない喜びに感謝してこっそりと綴ります。
 
ある日、淡白に偏った食生活にもう少しキリッとした大人の女性のスパイシーさが欲しくなり、家にあった数種のスパイスを用いて辛さに強靭な舌を作る修行を始めることにした。
私の両親はハナからそんなアヴァンギャルドな挑戦に付き合ってくれるほど甘くはない味覚に保守的な方々で、特に母などはあなた胃腸が弱いくせに何してんのといっそ真面目に怒り出すこと必至のスパイシーな先生なので、私は食事のたびにこそこそ身を隠して辛味とよつに絡み合ってきた。
私が胃腸の弱いのは確かで、今も夏以来ずうっと吐き下しの胃腸炎をぶり返して常に食欲がピーク時の3割減くらいで推移しているので、必ずしもハードな修行向きのコンディションとは言えないのである。しかし思い立ったが吉日、時は人を待たずして、女に二言はない(ときもある)。やりたいことはさっさとやっちまうのである。
 
とにかく料理に関しては冒険心の少ないトラッドでクラシカルなものを好む人間相手のおうちごはんを担当してきたので、常備してある香辛料もド定番のものばかり。初めはテーブルコショーと黒胡椒、一味と七味に山椒あります以上です!からのスタートであった。
まず消化器系の実力を鑑みて、修行のベースとする品は根菜と鶏肉を柔らかく煮込んだ消化に優しいスープにすることにした。修行に根をあげそうになったら溶き卵を投入して一筋の光明と為したい。
 
初日は恐る恐る、5日目にはスーパーで大辛唐辛子を追加購入、半月も経つと胡椒に対する感受性が完全に故障し消費量が急速にアップ。そのうちどこからか頂き物のハバネロペッパーを発見し堂々と4番入り、意外に平気で味を占める。山椒のシビ辛系の刺激が弱点と見るやジリジリと増量を重ねるサディスティックなコックの私、それをシビれながら受け入れる私はマゾヒスティックな求道者。カレーは健康食材よ、なんて風の噂を思い出し、ほとんど出演機会のなかったカレーパウダーとクミンの個性派俳優陣も加わり、私専用単身ルクルーゼ鍋の中は日に日に毒々しい色味に変化するのであった。
 
修行開始からおよそひと月。私の一人激辛ブームはエスカレーションし、毎日口の中で打ち上げ花火がハレーションな時間が常態化している。食事中の発汗と発熱が凄まじく、寒い季節に向けて代謝が上がるのは良きことなれど、流石にこの過激な修行の有様に、我ながら不安を覚える今日この頃。
思えば以前から、我々姉妹は放っておくと特定の飲食物へのコミットがどこまでも深まる性質があった。その昔、我々姉妹は毎日各自1本ずつの「ダイエットコカコーラ」を飲み干すことがルーティン化し、やがてそれが1日500mlのペットボトルから1.5リットルのパーティサイズに変化するまでにさほど時間はかからなかった。町内規定の分別ゴミのルールに則り、2週間に1度のペットボトル回収日まで空のボトルを室内に保管するのは風紀委員の母の目にあまりに目立ちすぎる、というのが当時姉妹の目下の悩みであった。
今から思えば君たち悩むべきはそこじゃないでしょうと当然のようにわかるのだが、ことほど左様に私たちのDNAには食べ物に関するルーティンが固着化しやすい特性があるらしい。ある意味これも「食の保守化」と言えるので、要するにうちの家族は押し並べて「反グルメ的」な人間ということだろう。そんなわけで今日も今日とて昔ながらの定番和食メニューばかりが並ぶ食卓となるわけだ。
 
さて、私の激辛修行はこの先どうなることやら。もはやどんな辛さでもイケる自信はあるけれど、それより前に胃腸がこぞっていつ消化のストライキを起こさないとも限らない。当初目指した「スパイシーな大人の女性像」はとうに捨てた。ひっきりなしにティシューで鼻をかみ、吹き出す汗に真っ赤な顔でスープをすする大人の女性なんていたもんじゃない。もはや目指す高みは「激辛王に俺はなる」が適当か。
それにしても単色の辛味の中にまろやかな癒しをくれる神々しい卵さまの光明、有難や有難や。
 
まだ始めてひと月足らずのこのブログ日記。読んでくださる読者の皆さまは私にとってスープの中の卵の喜びです。 ありがとうございます。