実家暮らしの手帖

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文明のぬるい水、灯油ボイラー死す

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経年変化
・・・年月が経つ内に製品の品質・性能が変化すること。特に摩耗・腐食などで性能が劣化すること。また時間の経過とともに住居が損耗すること。

出典:デジタル大辞林小学館

 こんにちは、薄氷の便利にまんまと踊らされている現代人ぐりです。

突然ですが我が家の灯油ボイラー(石油給湯器)が耐用年数超過の経年劣化のため急遽使用不能となり、昨日の明け方よりお湯が一切使えない状況となっております。突然落とされた薄氷下の水の冷たさに多少の困惑はありますが、これを不便と嘆くのも憚られるほど今なお全国の被災地でご苦労されている多くの人たちの存在を思えば、あまりにも微々たる事件であります。

というわけで、故障発覚後すぐに地元の設備屋さんに修理をお願いしたものの、当方主要都市から遠く離れた地方在住のため、代替製品を入手するのも一仕事。委託した健脚の飛脚さんが道中いくつもの険しい山を越え谷を越え、急流の河川を力強いクロールで泳ぎきり、次々に現れる悪い山賊をばったばったと倒しながら全力で運んでも到着まで最低まる一日かかるということで、本日正午過ぎからようやく取り付け作業に入りました。

実は昨年の秋にも地域全体に及んだ大きな地震による停電被害で足掛け3日間、電気が全く使えないという人生初の経験をしたのだったが、情けないことにこの時たった3日の不便にさえ私の気持ちは激しく揺らいだ。ああこんなにもこんなにも、私たちの暮らしの微に入り細に入り薄氷の文明は隅々と張り巡り、ほんの少しの亀裂で氷上の安穏があっけなく割れてしまうような足場のもとない場所に私たちは生きていたんだと。

砂糖をまぶした甘い氷菓子で生かされているような現代の暮らし。何をするにも「あ、電気つかないんだっけ」と間の抜けた声で呟いたあの時間を思い出すと今でも少し心が震える。

ただ、夜になると小さな町は丸ごと大きな闇に包まれ、秋の夜長の手持ち無沙汰を埋めようと家族揃って夕涼みに出た屋外で、本物の星空が丸い天空を覆っていた映像は、壮大なスケールの美しさと怖ろしさが入り混じる不思議な記憶として脳裏に深く刻まれた。

日常をはるかに超える美しさは同時に怖ろしいものでもあった。本来大いなる自然とはそうしたものであり、文明の軽やかさとは対照的な人類共通の畏怖の対象であろう。 

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 人や物の経年変化もまた、大いなる自然の一部と思えば未知なる不安に少々の怖さを覚えるのは至極当然。一方で、時の厚みに裏打ちされた力強い美しさを感受できればこんなに尊いものはない。

そんなわけで「経年変化」という言葉について、私は比較的前向きに捉えている。

「経年劣化」という言い方もあるが、変化とは必ずしも劣化のことではないでしょう、というので私は「経年変化」を好んで使う。だってヴィンテージって要するに経年変化に与わる付加価値のことでしょう?

「老化」なんて無味乾燥な表現もちょっとした感受性を加味して「ヴィンテージ」に変えるだけでほら、

「あの人は最近ずいぶん素敵にヴィンテージが増したね」

「おじいちゃんのヴィンテージは来年レベル80よ」

ね?ただの老化がぐんと楽しくなるはずだ。

そろそろ経年変化もめまぐるしいお年頃になった両親との実家暮らしを今後いかに価値あるヴィンテージにまで高めるかは、だからひとえに私の感性の発掘努力によると思っている。頼むぞぐり。

 

 さて。そうこうしてる間に無事取り付け作業終了。

今夜は復旧したぬるい文明を使って、お風呂で2日分の不安を洗い流そう。